こんせき(闇鍋企画・試食)
深夜―
ワンルームマンションの一室。
ネットサーフィンしていると久しぶりに『コトン』という音がした。
大体一ヶ月ぶりかな? と思いつつドアに付いている郵便受けのふたを開ける。
中からは小指の先ほどの大きさの小石。
綺麗に磨かれた、濁った白い小石。
ケイからの久しぶりの贈り物。
◆ ◆ ◆
ケイとの出会いは三年前。
大学の食堂で時刻表片手にどれだけ安く実家へ帰れるか頭を捻っていたところ、たまたま通りかかったケイがベストルートを教えてくれたのだった。
それ以来妙に馬が合い、一緒に旅をするようになった。とは言えケイはしょっちゅう出かけていたのでわたしはその内の一、二割程度だったが。
わたしが同行できない旅の時、ケイはわたしに旅先の出来事を手紙にして送ってきた。
封筒には手紙と、旅行先で拾ったと言う小石を同封してきた。
そして手紙が届いた日の夕刻かその翌日にはキャンパスで再会する。
それがわたしとケイとの『決まりごと』のようになっていた。
◆ ◆ ◆
ケイが大学を中退したのはわたしのせいである。
とは言え面倒ごとを起こしたとか暴力沙汰とかそんなもんではなく、ケイがわたしに送ってきた『旅行記』をたまたま出版社に勤める伯父が読み、そのユニークさに感動してケイに原稿を書いてみないか? と勧めたことが始まりだった。
伯父の出版社が発行していた月刊の旅行雑誌にケイの旅行記が掲載され、それが人気を呼び、あれよあれよと言う間にケイは『人気旅行作家』となり、日本全国をテーマにした連載を月一で載せてみないか、と言うことで休学し…
結局そのまま中退してしまったのである。
それでも、ケイは雑誌に連載するものとは別にわたし専用の旅行記を書き、その土地その土地の小石を同封してわたしに送ってきたし、その夕刻か翌日には二人で会い、旅の話をすることが多かった。
大学のキャンパスでなく、駅前の喫茶店が主だったが。
◆ ◆ ◆
その日、わたしはケイを空港まで見送りに行った。
ケイの国内旅行記は単行本化されベストセラーとなり、調子に乗った(失礼…)出版社が『今度は海外旅行記だ!』と航空運賃及び滞在費持ちでケイ(プラス編集者一名)を海外へ送り出すことになったのだ。
ロビーでケイは『今度は簡単には帰れないけど、小石だけは贈るからね』と微笑みながらわたしに約束すると機上の人となり…
飛行機ごと行方不明になってしまった。
◆ ◆ ◆
それから…
ケイはいまだに公的には行方不明のままである。あの時消えた飛行機とその乗員乗客ごと。
不定期にわたしの元に送られてくる小石がどこから来るのかもわからない。
でも、これが届くということは、ケイは確かに生きており、旅を続けているのだろう。
小石を小さな硝子瓶に入れ、日付を記したラベルを貼り、たくさんの同じ形をした硝子瓶が並ぶ飾り棚に置く。
中の小石は様々な色形をしており、中には日本どころか地球上にはあり得ないものもあるらしい(鑑定した地質学者が欲しがったが誰がやるものか!)。
ケイ、早く帰って来い。
また駅前の喫茶店で旅の話を聞かせてくれ。
待ってるからな。