奇機械怪 第一話 生誕!? 機功の付喪神

※ 闇鍋企画で、読まれた皆さんが続編を希望されてるのでとりあえず続けてみようかと上げてみた。


百年蔵。

央都一の歓楽街、風流町の表通りに建つ創業二百年の一流大料亭「守谷亭」。
その敷地内にある巨大なる機功の塊。

百年前、四代前の亭主、守谷三右衛門が生涯かけて蒐集した機功と書画骨董を収めている、と、伝えられている機功蔵である。
三右衛門が設定した閉蔵期間は、百年。なぜそんな酔狂な真似をしたのかは未だに謎のまま。

もちろん、その間央都に何もなかったわけがない。
数度にわたる暴動に戦乱、賊に狙われたことも何度となくあったと言う。

だが、その全てを乗り越え、中の収蔵物を守りきり、今、蔵の扉が開く。


◆ ◆ ◆


「百年間まったく手入れも稼動もされなかったにしてはきれいなもんですよ」
と、ぼくは守谷亭の七代目、七右衛門さんに話しかけた。

四十畳敷きの大広間を二つ、畳を全て取り外して置き台を並べ、そこに店の男衆を総動員して蔵の収蔵物を並べる。

言葉で言えばそれだけの事を終えるのに、半日がかり。三右衛門氏の蒐集物がそれだけ多かった、と言う事だ。

中から出てきたのは百年前でも貴重だったと思われる書画骨董から日常の生活用品玩具に機功。まぁ何と言うか無節操に集めるだけ集めました集めるのだけが目的でした、と言った品々の数々。

ぼくは屋形鉱作。風流町で機功工房を開いている一介の機功士だ。一級機功調整修理技士と一級機功鑑定士の資格は持ってるので素人ではない。念のため。
地主である守谷亭さんから頼まれて、収蔵品の機功と生活用品、玩具の鑑定をしている。

書画骨董担当は安国堂さん。さっきからしきりに『むぅ』とか『ほぉ』とか言いながら柔和な顔が崩れっぱなしである。この数寄者。

「一週間後に展示会を開きます。それまでに鑑定と修理調整をお願いします」
守谷亭さんも国中の数寄者、粋人、学者に新聞社その他有象無象から『蔵が開いたらぜひ展示会を開いてください』と頼まれ、これはいい商売の機会になると喜んでいる。


かくして一週間後、央都の私立御剣博物館で『守谷亭百年蔵収蔵品展』が開かれ、大盛況となったのだが…それはまた別の機会にお話できればするとして…


ぼくは仕事の報酬以外にとんでもないものを貰ってしまったのだった。

はぁ…まえおき長いわ…。



奇機械怪 第一話 生誕!? 機功の付喪神



それは一見したところ、薄汚れた正体不明のがらくたにしか見えなかった。

守谷亭さんからは『実はあの後、蔵の片隅から隠し部屋が見つかっちゃってね、そこから出てきたんだけど目録にもないし、君の働きに感謝してこれをあげるねっ、ぜひぜひ貰ってくださいよろしく、絶対に返すなんていわないでねっ』
と普段の落ち着きっぷりとは裏腹のはっちゃけた送り状に、わざわざ『贈り物 守谷亭』と書いた熨斗紙と、ついでにぼく名義の所有権登録証―これってけっこう登録料高いんだよ―まで付けて届けてきたのだから。

どう考えても厄介払いってやつだよね? これ。

工房に持ち込み、もの自体も洗浄してみたが、正直なんなんだかわからん。

まず本体は「卵」たぶん大駝鳥の卵の殻かなんかを使っているんだと思うが、蹴球ほどの大きさの縦横無尽に分割線が入った楕円球だ。
その表面に様々な機功の部品―演算素子、光素子、細管、歯車、力素管伝導管から鉱石基盤まで―を脈絡なく貼り付け、ご丁寧に一部は溶接までしている。
導管が付いているので思いついて力素を送り込んだら光り出し…すぐ消えて、それだけ。
だが、翌日からこれがまた奇妙な動きを始めたのだから、あながち間違いでもなかったのかもしれない。

外出して―そりゃ一日中これを見ているわけには行かない。ぼくだって仕事があるのだ―戻ってきたら置いていた場所とは違うところに転がっている。
真夜中になったら薄ぼんやり光りつつ、ぶつぶつぶつぶつぶつぶつ…と唸り出す。
数日後には上部がぽんっ、と開いて双眼鏡のようなものが出てきてあちこちきょろきょろし始め、底がぽんっ、で三角形に組まれた車輪が一対出てきて勝手に自分で動き回り始めた。

それらの形状を見てどっかで見たような、と部品棚の箱を調べたら…

ほとんどは廃部品だったが視覚基盤とか導力装置とか鉱石とか、まぁそれなりのお値段がするものがなくなって、こいつの部品になっていた。
なんとかこいつと意思疎通できなければ、更に何か貴重品がやられるかもしれない…

そう考えたぼくは、思いついて中古の伝話器をこいつの前においてみた。
思いついただけで特に根拠はなかったんだけど。

すると―
ぱくん、と腹に相当する部分が開き、中から手としか言いようのないものがぬうっ、と出てくると伝話器をわしっと掴み中に入れ…
『目』も『足』も中に引き入れて元の『卵』に戻って動かなくなった。

動かなくなっただけで絶えず『殻』の中からは「かりかり」だの「かちゃかちゃ」だのたぶん再構成しているような音がずっと聞こえてはいたのだが。


三日後。


「なんでさ?」
『卵』の殻がぱっくり割れて、中から猫耳で、背中から小さな蜻蛉のような羽根が生えた三寸程の背の高さの妖精っぽいもの、が産まれてましたとさ。
しかも、ぼくを見て、

「おとう・さま?」
「きみ、だれ?」
「わたし・つくも・です」
「つくも?…つくもって…付喪神!?」
「はい・それ・です…たぶん」
「な、なんでさ?」
「うまれる・ちから・たりなかった・のを・おとう・さま・が・くれ・ました」
「機功から産まれた新世代の付喪神、ってことなのか?」
「しんせだい・いみ・わかりません・わたしは・つくも・です」


あはははは…ほんと、とんでもないもの貰っちゃったよ、これ。


と、丁度その時を見計らっていたかのようにがらがらがらっ! と工房の玄関扉が開く音がして、どたどたどたっ! と駆け込んできたのは守谷亭氏。
「す、すまんっ! 鉱作君っ! この前の話は無かったことにしてこの前の品物を返して…あら?…遅かったかっ!」

ぼくと付喪神を名乗る妖精っぽいものを見てがっくりとひざを着く。

「今日、隠し部屋から新たに三代目の残した録音盤が見つかって、『機功から産まれる付喪神の卵を作ったから面倒見てあげてね、実はあの蔵の品物はみんなこれから目を逸らすための囮だったんだよ〜。じゃあよろしくねぇ』って入ってたんだ」
「でも、夜中にごろごろ動くはぶつぶつ言うはで店中の者が気味悪がってね」
「厄介払いに君のところへ贈り物にしちゃったんだけど…返してくれないよ、ね?」


………丁重にお引き取り願いました。


こうして、ぼくの工房に住人? が増えた。
なぜかぼくの頭の上がお気に入りで、お陰でぼくの頭は鳥の巣のようになってしまっている。
名前は「きき」ぼくがそう名づけた。

奇妙な機功から産まれた付喪神、奇妙な機功の神様だから「奇機」。

なかなかいい名前だと思わないかな?


その後、ぼくは付喪神が憑いている機功技士兼鑑定士として業界的には有名人になり、ききと共に色々な面倒ごと―奇機械怪な話―に巻き込まれていくことになるんだけど…

それはまた、別の機会にお話することにしよう。

気が向いたら、ね。


(奇機械怪 第一話 生誕!? 機功の付喪神・完)